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大阪高等裁判所 昭和48年(ネ)1178号 判決 1974年9月20日

控訴人、附帯被控訴人 竹内照明

右訴訟代理人弁護士 谷口茂高

瀬戸俊太郎

被控訴人、附帯控訴人 白石静夫

右訴訟代理人弁護士 川崎寿

主文

原判決を取消す。

控訴人の本件訴を却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とする。

事実

控訴人(附帯被控訴人、以下単に控訴人という。)は、控訴として「原判決を次のとおり変更する。原判決末尾添付目録記載の交通事故によって生じた損害について、控訴人、被控訴人(附帯控訴人、以下単に被控訴人という。)各自の賠償債務の負担部分の割合は、控訴人五、被控訴人五の割合であることを確認する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求めた。被控訴人は、控訴に対し本案前の答弁として、「原判決を取消し、本件訴を却下する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を、本案に対する答弁として「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担とする。」との判決を求め、附帯控訴として「原判決中被控訴人敗訴部分を取消す。控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。」との判決を求めた。

≪証拠関係省略≫

理由

控訴人の本件訴は、原判決末尾添付目録記載の交通事故は、控訴人の自動車を運転していた控訴人と、被控訴人の自動車(被害者らが同乗)を運転していた被控訴人とのそれぞれの過失に基因する不法行為であり、右事故により負傷した被害者らに対する控訴人と被控訴人との各自の損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債務であるところ、控訴人の被害者らに対する賠償債務履行後における被控訴人に対する将来の求償権行使のために、各自の過失割合に基づく債務負担部分の割合の確定を求める、というにある。

本件交通事故が、控訴人主張のように、控訴人及び被控訴人の双方の過失に基因するものであるならば、両者の共同不法行為であり、被害者らに対して控訴人及び被控訴人は各自その損害の全部につき賠償債務を負担するものであるが、債務者である控訴人と被控訴人との間においては、いずれか一方がその債務を弁済し共同の免責を得たときは、相手方に対して両者の過失の割合にしたがって定められるべき相手方の負担部分について求債権を行使することができるものと解すべきである。(最高裁第二小法廷昭和四一年一一月一八日判決、最高裁民集二〇巻九号二二二頁参照)

ところで、右の負担部分なるものは、具体的な数額ではなく、一定の割合をいうものであり、共同不法行為者相互間の具体的な権利義務というべき求償権の有無を決定するための基礎、前提となるものである。負担部分の存在と共同不法行為者の一方の弁済による共同の免責という二つの事実によって具体的権利である求償権が発生する。したがって、負担部分そのものは法律的に意味のある事実ではあるけれども、それ自体を確認訴訟の対象となるべき権利又は法律関係であると解するのは相当でない。

かつ、被害者に対する損害賠償債務の履行以前において負担部分の割合を確定したとしても、各共同不法行為者はこれを被害者に対し主張しえないし、共同不法行為者の一方は、被害者に対する損害賠償債務の履行後でなければ負担部分の割合による求償権を行使しえないのであるから、その履行後における求償権行使の際に各自の負担部分の割合が確定されれば足りるわけである。それ以前において、将来の求償権行使のためその負担部分の割合を確定しなければならない必要ないし利益は存在しないというべきである。もっとも、被害者に弁済すべき損害額の全額の確定が早急には困難であるような場合、その他負担部分の割合を予め確定しておくことが便宜な場合があることは推察するに難くないが、予めそれを確定しておいても、求償を受けた相手が任意の履行に応じないとか或は求償権を行使する方のなした被害者に対する弁済の額の相当性が争われるような場合においては、更に給付訴訟を提起してその求償権を確定する必要があるわけである。又、負担部分の割合を確定しておくことの便宜という意味からすれば、一部の共同の免責部分について具体的に求償権を行使するに当ってその負担部分の割合が確定されれば、それ以後においては双方がその確定された割合に事実上従えば足りるわけである。そして、前記の負担部分の性質からして、右のような便宜は、結局、事実上のものであり、これをもって確認の訴における確認の利益があるということはできない。

してみると、控訴人の本件負担部分の割合の確認の訴は、確認の利益を欠く不適法なものというべきであるから、本件控訴及び附帯控訴につき判断するまでもなく、控訴人の請求を一部認容した原判決を取消し、控訴人の本件訴を却下することとし、訴訟費用につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 井上三郎 判事 石井玄 畑郁夫)

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